佐々木クリスが語る「Fear the beard –髭を恐れろ–」

  • 2018/3/27

ジェームズ・ハーデン

(C) 2018 NBAE Photo By Bob Levey NBAE

ドライブとみせて急激にステップの方向を斜め後ろに切り返す。この“ステップバック”と呼ばれるフットワークをみせると同時に、マークマンが床に崩れ落ちる。3ptラインまで下がった男が床に倒れた相手を静かに眺めながら、手に収まったボールの革の感触を確かめる。時が止まったようにも見えて、男はシュートを放つ前に舌なめずりすらしているようだった。

これは実際に今シーズンのNBAの試合中に起きた一場面である。

分厚い髭をたくわえたその男の名前はジェームズ・ハーデン。1対1の場面であまりにも強大な力の差をみせられたディフェンダーは、立ち上がって笑みを浮かべることしか出来なかった。シュートが決まり振り返ったハーデンはどうだ!と言わんばかりに、背番号が書かれた自らのユニホームを左右に引っ張ってアピールする。

髭の隙間から白い歯があらわになった。

現在ヒューストン・ロケッツに在籍するハーデンが、1試合あたりに稼ぐ得点は31点。自身初となる得点王を獲得するペースでゴールを量産しているが、得点を取ることはもはや朝飯前。昨シーズンには史上初めて通季で計2000得点、900アシスト、600リバウンドを同時に記録、アシスト王にも輝いた。自身で挙げた得点は2000点以上、そしてアシストした得点の合計も2000点を超えたことも史上初の偉業だった。ただのスコアラーではない、正真正銘ロケッツが誇るエース・ポイントガードだ。

さらに付け加えるなら、かつて2度のシーズンMVPに輝いたスティーブ・ナッシュという名ポイントガードが、1つのシーズンで最も多く3ptシュート成功をアシストするという記録(284本)を持っていたが、昨シーズンのハーデンはチームの戦術も相まって、その記録を84本も上回った。自分で穫って良し、味方をお膳立てして良し、まさにNBA一のディフェンス解体職人… そんな彼がキャリア初のMVP獲得に邁進している。

2009年ドラフト全体3位で指名を受け、4シーズン目にしてオールスター選出。分岐点はその4シーズン目の開幕直前、2012年10月27日に電撃移籍したこと。それまではシーズンMVP受賞歴のあるケビン・デュラント(現ゴールデンステイト・ウォリアーズ)、ラッセル・ウェストブルックとオクラホマシティ・サンダーに在籍。2012年6月にはNBAファイナルに進出するも、レブロン・ジェームズを擁するマイアミ・ヒートに敗れたばかりで、3人は向こう何年にも渡る王朝を約束されたライジングスター軍団の一角だった。

ただ、サンダーに在籍した3年間はベンチスタートの6thマン。2011-12シーズンには最優秀6thマン賞を受賞し、もはやその才能を目の当たりにしない日はないほど突出した才能ではあったが、エースではなかった。 そんな彼が安定を顧みず、古巣を飛び出したばかりか、勢いもそのままに、開幕戦ティップオフ1時間前に5年8000万ドルの契約延長を締結。一国一城の主として決起したのだった。ロケッツとしても大きな賭けのはずだったが、ルーキーの時から、隙あらば引き抜きたいと目を付けていたダレル・モーリー球団GMは、開幕戦でデトロイト・ピストンズ相手に37点を取ってみせたハーデンのパフォーマンスに、ここでは書けないような言葉遣いで「だから彼を連れてきたんだ!それ見たことか!」と声を大きくしたと振り返る。

すでにオクラホマでもモジャモジャの髭と愛くるしい瞳で人気を博していたハーデン。この年には自身初のトリプルダブル(1試合中に主要スタッツ3部門で2桁以上の記録を同時に残す偉業)も記録、人気は旋風へと変わって行く。

彼はディフェンスを“釣る”名手で催眠術師でもある。利き手の左から股の間にボールを潜らせて右手に持ち替え、さらに身体の前で右から左に持ち替える。ディフェンスを眠りへと誘うと次の瞬間には視界から消えている… 元チームメイトには“蝶のように舞い、蜂のように刺す”「ボクサー」とも形容されていた。対戦相手を料理した後に見せる“鍋の具を混ぜる”パフォーマンスをしていたことから、超一流シェフとも表現された。
その中でも最もファンが支持するのは、Fear the Beard『髭を恐れろ』のスローガンだ。もはやホームコートのあるヒューストンでは、この言葉が綴られたプラカードを見ない日がないほどだ。

日々切磋琢磨するNBA選手達も賛辞を惜しまない彼のプレーの数々… あるひと夏、スパーズのマヌ・ジノビリを研究し身につけた4種類のユーロステップに、MVP級の選手にも「欲しい!」と言わしめる“死神”の名を冠した冒頭のステップバック、3ptの遥か後方から放つ長距離砲に、相手センター越しに叩き込むドライブイン・ダンク。分かっていても止められない!分かっていてもファウルをしてしまう…。

バスケットボールで最も効率の良い得点方法であるフリースロー(FT)を獲得する技術は天下一品。2012年のロケッツ移籍後6シーズンで、2番目にそれを多く獲得している選手より、実に1181本も多いのだ。

ただ、彼の少年時代まで遡ると、それは始めから完成されたプレースタイルだったわけではなく、始めのころはコートの隅に立って、ボールがくれば打つ“待ち打ちシューター”だったと本人がかつて明かしている。そんな中で並々ならぬセンスに気付いた高校のコーチが、とにかくドライブで決める練習と「1試合で6本以上FTを獲得出来ればハンバーガーを御馳走しよう。達成出来なければダッシュだ」と背中を押したことで多くのプレーを吸収したと言う。当時のコーチは振り返って「素晴らしいアスリートは空中での所作を身につける。ジェームズは接地した状態での所作を憶えて行った。ジャンプストップ、ポンプフェイク、空間と時間を捉える能力」と彼の成長を思い起こす。若手発掘が業務のスカウトも当時のプレースタイルを「30歳のようだった」とクレバーで老獪な若武者の印象を語る。

サンダー時代には、ドライブの際にボールをディフェンダーに取られないよう、アゴの下でコントロールすることを教えられたハーデン。ただしその手法は試したものの「自分には合わなかった」そうで、「逆に腕を伸ばしてみることにしたんだ、すると守備側はどんどん手を出してきて、自分の腕を叩いた。お宝を見つけたようだったね。黄金を。みんな僕が自らぶつかりにきていると思っているが、釣り針にエサを付けた状態なのさ。手を出す選択肢はあるよ、でも当たればファウルだから」。今なお、数えきれないほどの巧妙かつ効果的な技術を、ハーデンは進化を続けながら身につけている。

今季はチームもNBA最高勝率を誇っている。モーリーGMはハーデン獲得の策には確信があったと強調するも、「ここまでと分かっていれば、あと5つはドラフト1巡目指名権を差し出したよ」と気分は上々だ。今季開幕前にはハーデンの相棒としてクリス・ポール(今季クリッパーズから移籍)まで獲得してみせたのだから、彼の上機嫌は無理もない。

泣く子も黙るオフェンスマシーン、実は結構な不思議ちゃん。友人にしか通じないスラングを多用し会話をするのは序の口、自慢の髭には誰であっても一切触れてはいけないそうだ。アフロとモヒカンを合体させたようなソフトモヒカンもお洒落だが、その頭髪を整える理髪師すら髭には触れられない…。
あまりにも立派な髭で怪しがられることもしばしば起こるそうだが、「正直髭の無い自分を見るのは恐ろしい」そうで、「ただ見た目じゃない本当の自分を知ってくれれば惚れるぜ」と自らフォロー。

見たら2度と忘れることはない容姿に、溢れんばかりの才能。髭をトレードマークにしたマーケティング戦略もバッチリ。人気のオールスター選手達の仲間入りをして間もなく大型のシューズ契約と、トラックいっぱいに積み込まれた自らの名を刻んだスニーカーも手に入れた。

その男、髭につき注意。主な犯行手口はステップバック。ディフェンダーの心を折ってはニンマリ。大舞台でこそ目指すステップアップ、残す栄光はMVPにチャンピオンシップ。

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