【木村浩嗣コラム】R・マドリード相手に“受けて”はならない。乾の存在も最大限に活きる「個」と「個」の対決

  • 2018/3/8

text by 木村浩嗣

エイバルとレアル・マドリード。今週末に対戦する両チームだが、前節の試合ぶりから明らかになったことがいくつかあった。デポルティーボと引き分けたエイバル(1−1)は、やはりボールを持たされる展開では本来の力が発揮できない。相手が前半のうちに退場となり、べた引きされてスペースがなくなると攻撃が手詰まりになってしまう。エイバルの持ち味は激しいプレスでインターセプトすると、一気に相手ゴールへ殺到するショートカウンター。だから、狭い所を細かいパスを繋いで崩すことには慣れていないのだ。

その象徴が乾貴士だった。右からのセンタリングに大外から回り込みフィニッシュする、戦術的に確立されたパターンで今季初ゴールを決めたものの、74分に代えられてしまった。相棒のSBホセ・アンヘルがサイドに上がりっぱなしになると、乾は内に入らざるを得ない。相手の人の壁ができているところで静止してボールを受けても、飛び出すスペースがなく爆発的なスピードが活かせない。また、逆足(右利き)の左サイドなので対角線侵入は得意でも、唯一スペースのあるコーナーフラッグ付近に縦へ抜けるのは苦手。乾に代わって入った右利き右サイドのアレホが次々と縦に抜けて危険なセンタリングを上げたので、一層、乾との違いが際立つことになった。

とはいえ、こういう状況はR・マドリード戦では起こりそうもない。ボール支配をする相手に対しエイバルはショートカウンターを狙い続けるはず。「ならば先発は乾」とメンディリバル監督の心は決まっているはずだ。メンディリバル監督には、R・マドリードに敗れたヘタフェ(3−1)のプランニングミスも教訓となったに違いない。ヘタフェのボルダラス監督は本来の2トップの[4−4−2]ではなくホルヘ・モリーナ、柴崎をベンチに置き1トップにアンヘル、その下にファジルを置いた守備的な[4−4−1−1]で臨み、良さを出せないまま敗れた。今のR・マドリード相手に“受けて”は駄目なのだ。

◆不安定な内容が続くR・マドリードの問題点

前々節エスパニョール戦で敗れるなど不安定なパフォーマンスが続くジダン監督のチームの問題の一つは、モチベーションにある。クラブも監督も選手たちも認めていることだが、彼らの気持ちはチャンピオンズリーグに傾きつつある。王者のプライドもあるし超一流のプロフェッショナルたちでもある。が、例えばヘタフェ戦で、パリ・サンジェルマン戦に備えてマルセロやクロースを温存する姿勢が選手に伝わらないとすれば嘘である。 メンタリティは非常に微妙で同時に決定的だ。どんなタレント集団もアグレッシブでなければ闘争心あふれる格下に簡単に足下をすくわれる。エイバルが付け入る隙は大いにある。

メンディリバル監督はどんな相手にも戦い方を変えない。そんな指揮官の性格を反映したエイバルは、試合開始後から猛ラッシュを掛けるだろう。冷たい雨が予想されているエイバルで、滑り出しの身体も心も温まっていない状態の時に気持ち的に受身に立たせること、ここからエイバル勝利のシナリオが始まる。

ジダン監督がどんなメンバーで臨んでくるかは未知数だ。モドリッチ、クロースのケガの回復具合、パリ・サンジェルマン戦後にどの程度の休養を必要とするかもわからない。彼らのうち1人が欠けてもボールキープ力は格段に落ち、エイバルのプレスに引っ掛かる可能性は高くなるだろう。

◆乾にとって、バルセロナ同様にやり易い相手

R・マドリードのパフォーマンスが安定しないもう一つの理由は、ポゼッションが安定しないことにある。ジダン監督の設計図では、モドリッチとクロースはほとんどの時間帯を両SBの後ろでプレーし、カゼミーロはCBのすぐ前にポジショニングする。つまり、CBコンビ+カゼミーロの3人が最終ライン、その前のクロースとモドリッチが2ボランチ(ダブルゲームメイカー)の形になっているのだ。

もし、ジダン監督がクロースやモドリッチではなくコヴァチッチやマルコス・ジョレンテを送り出し、3人目のゲームメイカーになるイスコやアセンシオではなく、ベイルを起用してクリスティアーノ・ロナウド、ベンゼマとの3トップを組ませた[4−3−3]で臨むとなると、エイバルにとってはさらにチャンスが広がる。中盤のキープ力低下はそのままショートカウンターのチャンス増大に直結するからだ。もっとも、これは両刃の剣でもある。エイバルの高い最終ラインがBBCによって切り裂かれる可能性も高まるからだ。エイバルのショートカウンターに対しR・マドリードは裏へのロングパスで対抗、中盤が空洞化すると、両チームに交互に次々にゴールチャンスが訪れるようなスリリングなゲームが期待できる。

乾にとってはバルセロナ戦同様、やり易い相手となる。何も特別なことをする必要はない。今季ずっとやり続けている、忠実なプレス、正確なポジショニング、ボールを奪っての仕掛け、詰まった時の作り直し、逆サイドのセンタリングにあわせてシュートエリアに入るなどの仕事をこなせば良い。対面はカルバハル。驚異的な運動量を誇るスペイン代表右SBと相手に不足はない。

BBCはサイドのケアをあまりしないから、3トップならカルバハルが裸になる可能性もあり、乾VSカルバハルの1対1、乾とホセ・アンヘルVSカルバハルの2対1、乾とホセ・アンヘルVSカルバハルとヴァランの2対2などが頻発するかもしれない。そもそもジダンのチームは組織でなく個で守るのが基本。足を止め正対した乾がカルバハルやヴァランに勝負を挑む――そんなモダンフットボールでは消えつつある、「個」と「個」の対決が満喫できるとしたら、我われ日本人にはたまらない展開となるだろう。

クラシコ



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