強打の前IBF王者 vs 頭脳派暗殺者
KO決着必至 オッズは3対1でレミュー
7年近い在位を誇るミドル級の第一人者、WBA、WBC、IBF3団体統一王者のゲンナディ・ゴロフキン(35=カザフスタン/アメリカ)がダニエル・ジェイコブス(30=アメリカ)戦で若干の綻びをみせたり、12年ロンドン五輪金メダリストの村田諒太(31=帝拳)の世界挑戦が決まったりと話題の多いミドル級トップ戦線。
そのなかで行われる今回の世界ランカー対決は、ミドル級の今後を左右する可能性もある注目の一戦といえる。
デビッド・レミュー(28=カナダ)はデビューからの20連続KO勝ちを含め39戦36勝(32KO)3敗、82パーセントのKO率が示すとおりの強打者で、特に左フックの破壊力には定評がある。身長177センチ、リーチ178センチとミドル級では決して大柄ではないが、リスクを承知で仕掛ける勇敢な戦いぶりは魅力的で、世界中に多くのファンを持っている。プロキャリアも10年になり、15年6月〜10月までIBFの王座に君臨するなど経験値も高いものがある。ゴロフキンに8回TKO負けを喫してIBF王座を失ったあとも元世界ランカーのグレン・タピア(米)を下すなど2連勝を収め、復調を印象づけている。現在はWBCとWBOで4位、IBFで7位にランクされており、知名度もあるためいつでも世界戦の舞台に上がれる状態といえる。
カーティス・スティーブンス(32=アメリカ)は、身長170センチ、リーチ182センチとレミューよりもさらに小柄だ。しかし、その体で相手に果敢にプレッシャーをかけ、距離を潰して飛び込んで左右のフック、アッパーを上下に叩きつける好戦的な戦いをみせる。
好機にみせる回転の速い連打は風車を思わせる。13年11月にはゴロフキンの持つWBA王座に挑んで8回終了TKO負けという結果に終わりはしたが、10カウントを拒んでタフネスぶりを発揮した。その約1年後、アッサン・エンダム(フランス ※5月20日に村田とWBA王座決定戦で対戦)に12回判定負けを喫して一時はトップ戦線から脱落しかけたが、昨年5月に当時IBF4位だった全勝のパトリック・テイシェイラ(ブラジル)に2回TKO勝ちを収めて再浮上。11月にはセルゲイ・コバレフ(ロシア)対アンドレ・ウォード(アメリカ)のWBA、IBF、WBO世界ライト・ヘビー級タイトルマッチの前座でも勝利を収めている。このほか現IBF1位のトゥレアノ・ジョンソン(バハマ)に10回TKO勝ちを収めてもいる。現在はWBC3位をはじめIBF6位、WBA8位、WBO10位にランクされている。34戦29勝(21KO)5敗。
実績も知名度もあるトップ選手同士のサバイバルマッチだが、オッズは3対1でレミュー有利と出ている。一発の破壊力、体格、経験値などが高く評価されているのだろう。距離を詰めないことには仕事ができないスティーブンスが前進し、レミューが迎え撃つことになりそうだが、初回から目の離せない展開になることは間違いない。中間距離になった瞬間、はたしてどちらのパンチが先に当たるのか。
Written by ボクシングライター原功
ミドル級トップ戦線の現状
WBA SC:ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)
WBA 暫定:アッサン・エンダム(フランス)
WBC :ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)
IBF :ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)
WBO :ビリー・ジョー・サンダース(イギリス)
17連続KO防衛を果たすなど圧倒的な強さを見せつけてきた3団体統一王者のゲンナディ・ゴロフキン(35=カザフスタン)が3月のダニエル・ジェイコブス(30=アメリカ)戦で小差の判定勝ちに留まり、その政権に若干の陰りが見えてきた。4月8日で35歳になったこともあり、今後はどこまで力をキープできるかが課題になりそうだ。
そのゴロフキンに対してはWBO王者のビリー・ジョー・サンダース(27=イギリス)が対戦を希望しており、「6月にカザフスタンに行ってもいい」と具体的な譲歩案も出している。ゴロフキンにとっても4団体統一のチャンスであり、今後の動きが注目される。
ただ、打倒ゴロフキンの一番手といえるのは、やはりWBO世界スーパー・ウェルター級王者のサウル・カネロ・アルバレス(26=メキシコ)だろう。5月6日に元WBC世界ミドル級王者のフリオ・セサール・チャベス・ジュニア(31=メキシコ)との164.5ポンド(約74.6キロ)契約の試合が迫っているが、アルバレスがこの試合をケガなくクリアするようだとゴロフキンとの頂上対決はより具体化しそうだ。
空位になっているWBAのレギュラー王座は、暫定王者のアッサン・エンダム(33=フランス)と村田諒太(31=帝拳)が5月20日に決定戦を行うことになった。スピードと運動量、スタミナに定評のあるエンダムを村田の強打が封じ込めるかどうか。村田が内容のともなう勝利を挙げるようだと、一気にスターダムに駆け上がることになりそうだ。
このほか前IBF王者のデビッド・レミュー(28=カナダ)、好戦派のカーティス・スティーブンス(32=アメリカ)、ゴロフキンを苦しめたジェイコブスら力のある選手が控えている。
元3階級制覇王者 vs 元世界ランカー
ガンボアは15ヵ月ぶりのリング
暫定王座を含めてフェザー級、スーパー・フェザー級、ライト級を制覇した実績を持つユリオルキス・ガンボア(35=キューバ)が、元世界ランカーのレネ・アルバラード(28=ニカラグア)と拳を交える。プロモーションの問題で前戦から15ヵ月の空白ができたガンボアがどんなパフォーマンスをみせるのか注目される。
ガンボアは04年アテネ五輪フライ級で金メダルを獲得するなどトップアマとして活躍後、06年12月に亡命してプロに転向した。身長166センチ、リーチ165センチと体のサイズとしては決して大きくないが、「サイクロン」のニックネームがあるように攻撃型の選手で、ここまで26戦25勝(17KO)1敗の戦績を残している。唯一の敗北は14年6月、テレンス・クロフォード(アメリカ)の持つWBO世界ライト級王座に挑んで9回TKO負けを喫したものだ。その後は2連勝しているが、試合間隔が空いている。そんな折り、このほどゴールデンボーイ・プロモーションズと契約を交わし、これが初試合となる。
対するアルバラードは31戦24勝(16KO)7敗のレコードを残している。現在はWBCでフェザー級26位に甘んじているが、3年前にはWBC5位にランクされたこともある。その後も勝ちと負けを繰り返してきたが、直近の試合では世界挑戦経験者のジェイソン・べレス(プエルトリコ)に10回判定勝ちを収めている。両拳を胸の前に置いた構えで間合いを計りながら戦うボクサーファイター型で、特別な攻撃力はないものの粘り強く戦うタイプといえる。
実績に加え攻撃力で勝るガンボア有利は動かしがたいところで、本来の動きができればKO勝ちもみえてきそうだ。その一方、ブランクからくる錆があるようだとアルバラードに付け込まれる危険性もある。
Written by ボクシングライター原功
12戦全勝(8KO) vs 16戦全勝(7KO)
カナダとアメリカのホープ対決
ともに世界レベルでの実績はないが、イーブ・ユリース(28=カナダ)は14年1月のプロデビューから12戦全勝(8KO)をマーク。アドニス・スティーブンソン(カナダ)やデビッド・レミュー(カナダ)などカナダのスター選手の前座に出場して勝利を重ねてきた。
一方のザッカリー・オチョア(24=プエルトリコ)は11年9月にアメリカのニューヨークでプロデビューし、16戦すべてで勝利を収めてきた(7KO)。こちらもエイドリアン・ブローナー(アメリカ)やダニー・ガルシア(アメリカ)、サウル・カネロ・アルバレス(メキシコ)らのアンダーカードで戦う機会が多く、そんなところからも期待度の高さがうかがわれる。
ともに左ジャブを飛ばしながら試合を組み立てるタイプだけに、どちらが先に主導権を握るかといった点が勝敗に大きく関わってきそうだ。
Written by ボクシングライター原功