イギリスのジャッカル VS メキシコのコブラ
アメリカ初登場の王者に注目
WBA&WBO王者のギジェルモ・リゴンドー(キューバ)、WBAのレギュラー王者、スコット・クィッグ(イギリス)、
5階級制覇の実績を持つノニト・ドネア(フィリピン)ら地力のある選手が集結するスーパー・バンタム級トップ戦線。このIBF王者、20戦全勝(14KO)のフランプトンも主役のひとりだ。
フランプトンは昨年9月、キコ・マルチネス(スペイン)を下してIBF王座を獲得し、今年2月には指名挑戦者のクリス・アバロス(アメリカ)を5回TKOで撃退。王者としてのキャリアは1年に満たないが、すでにその実力と潜在能力は高く評価されている。
いまや業界の行方を左右する影響力を持つといわれるアメリカのアル・ヘイモン氏がアドバイザー契約を望んだことでも、フランプトンの存在価値の高さがうかがい知れよう。「ジャッカル」の異名を持つフランプトンは身長165センチと決して大柄ではないが、巧みに出入りしたり揺さぶったり圧力をかけたりと様々なアプローチをして相手に迫り、そのまま攻め落としてしまう。あるいはカウンター気味にかます右ストレートで相手に甚大なダメージを与えて戦闘不能にしてしまう。見るものをエキサイトさせるスタイルの持ち主といっていい。事実、ホームとしているイギリスの北アイルランド、ベルファスト1万人規模の会場は試合のたびに満員になるほどだ。
そんなフランプトンが今回、イギリスの枠を超え真の意味で世界への飛翔をかけてアメリカのリングに上がる。
その相手を務めるゴンサレスは28戦25勝(15KO)1敗2分の戦績を誇る22歳で、世界挑戦はこれが初めてとなる。2年前にWBCのユース・シルバー王座を獲得したことはあるが、フランプトンと比較すると知名度や実績、総合力で見劣りする点は否めない。
しかし、90年代の中量級を湧かせた元WBC世界フェザー級王者の息子という話題性もあり、なかなかの注目と期待を集めてもいる。
父親のアレハンドロ・ゴンサレスは強打とタフネスで鳴らした実力者で、95年1月〜9月まで世界の最高位に君臨した実績を持っている。今回、息子が戴冠を果たせば史上7組目の親子世界王者となる。
ゴンサレス・ジュニアは170センチの長身から左ジャブを突いて距離をキープ。適度に足をつかいながら右ストレート、左フックを返す比較的オーソドックスなタイプといえる。細身のためか「コブラ」というほどの毒気は感じられないが、見た目以上にパワーがあるのかもしれない。
ゴンサレス・ジュニアが偉業を達成するためには足と左ジャブを十分に機能させることが不可欠といえる。動きが止まり隙をみせるとフランプトンの接近を許し、波状攻撃の的になってしまいそうだ。
Written by ボクシングライター原功
スーパー・バンタム級トップ戦線の現状
WBA SC :ギジェルモ・リゴンドー(キューバ)
WBA :スコット・クィッグ(イギリス)
WBA暫定:モイセス・フローレス(メキシコ)
WBC :レオ・サンタ・クルス(メキシコ)
IBF :カール・フランプトン(イギリス)
WBO :ギジェルモ・リゴンドー(キューバ)
実績、総合力ではギジェルモ・リゴンドー(キューバ)がトップを行くが、試合枯れ状態が続いている。昨年12月に来日して天笠尚(山上)を退けてからリングに上がっておらず、次戦も具体化していない。9月30日で35歳になるだけに、今後は時間との戦いも強いられることになりそうだ。対照的に勢いがあるのがIBF王者のカール・フランプトン(イギリス)だ。昨年9月、キコ・マルチネス(スペイン)に快勝して戴冠を果たしたフランプトンは、今年2月には指名挑戦者のクリス・アバロス(アメリカ)を一蹴して勢いを増している。今春、業界で絶大な影響力を持つアル・ヘイモン氏と契約を交わしている。
そのフランプトンとライバル関係にあるのがWBAのレギュラー王者、スコット・クィッグ(イギリス)だ。戴冠はこちらが先で、すでに6度の防衛を果たしている。ビジネス上、フランプトンとの統一戦は難しくなったが、代わりにノニト・ドネア(フィリピン)との大一番が浮上しているだけに、リング外の動きにも注目したい。IBFの指名挑戦権を持つ和氣慎吾(古口)も挑戦の機会をうかがっているが、まだ具体的な話にはなっていない。
惨敗からの再起を狙うチャベス・ジュニア
元世界ランカー相手に存在感示せるか
チャベス・ジュニアは今年4月、世界挑戦の経験もあるアンドレイ・フォンファラ(ポーランド)と対戦したが、まったくいいところなく9回終了TKOの惨敗を喫した。13ヵ月のブランクが響いたのか最初から生彩がなく、毎回のように失点を重ね、キャリア初のダウンを喫したすえの棄権だった。
こうした経緯からみて今回のレイジェス戦はチャベス・ジュニアにとって選手生命を賭した試合になりそうだ。もしも連敗を喫するようなことがあれば完全にトップ戦線から脱落することになる。自ら望んで短いスパンで再起戦に臨むだけに、ここは圧倒的な勝利がノルマといえよう。52戦48勝(32KO)2敗1分1無効試合。
対するレイジェスはチャベス・ジュニアと同じ185センチの長身選手で、戦績も35戦33勝(24KO)2敗と高い勝率を誇る。1年前まではWBC世界ミドル級10位にランクされていた実力者だけに侮れない。ただし、チャベス・ジュニア同様、スピードはそれほどでもないため、元王者にとっては戦いやすい相手といえるかもしれない。
<資料>親子世界チャンピオン
(1) エスパダス父子(メキシコ) | |
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父 グティ・エスパダス | フライ級(76年〜78年) |
息子 グティ・エスパダスJr | フェザー級(00年〜01年) |
(2) スピンクス父子(アメリカ) | |
父 レオン・スピンクス | ヘビー級(78年) |
息子 コーリー・スピンクス | ウェルター級(03年〜05年) スーパー・ウェルター級(06年〜08年、09年〜10年) |
(3) アリ父娘(アメリカ) | |
父 モハメド・アリ | ヘビー級(64年〜67年、74年〜78年、78年〜79年) |
娘 レイラ・アリ | スーパー・ミドル級(05年〜07年) |
(4) バスケス父子(プエルトリコ) | |
父 ウィルフレド・バスケス | バンタム級(87年〜88年) スーパー・バンタム級(92年〜95年) フェザー級(96年〜98年) |
息子 ウィルフレド・バスケスJr | スーパー・バンタム級(10年〜11年) |
(5) チャベス父子(メキシコ) | |
父 フリオ・セサール・チャベス | スーパー・フェザー級(84年〜87年) ライト級(87年〜89年) スーパー・ライト級(94年〜96年) |
息子 フリオ・セサール・チャベスJr | ミドル級(11年〜12年) |
(6) ユーバンク父子(イギリス) | |
父 クリス・ユーバンク | ミドル級(90年〜91年) スーパー・ミドル級(91年〜95年) |
息子 クリス・ユーバンクJr | 暫定ミドル級(15年〜) |
※このほか養子縁組のパターソン親子(父フロイド・パターソン=ヘビー級、息子トレーシー・ハリス・パターソン=スーパー・バンタム級、スーパー・フェザー級)の例もある
Written by ボクシングライター原功