5階級制覇の天才 VS KO率82%の強打者
マイダナの一発に波瀾の可能性
昨年12月、マイダナが「メイウェザーの後継者」と呼ばれていたエイドリアン・ブローナー(アメリカ)から2度のダウンを奪ってWBA王座を獲得。それを機に一気に対決ムードが高まり実現に至ったカードだ。一時はアミール・カーン(イギリス)がメイウェザーの第一対戦候補だったが、それを逆転するかたちでマイダナが選ばれた。その最終指名をしたのがメイウェザー自身だった。「よりスリリングで興味深いカードを提供しよう」という客観的見地からの判断といえる。そこにはメイウェザーが抱える使命感の一端を見てとることができる。メイウェザーは昨春、長年のパートナーだったHBOテレビを離れ、ライバルのショータイムに移籍する際、「30ヵ月に6試合」の契約を交わした。その最低保障報酬額は2億ドル(約206億円)と報じられている。それにしたがい初戦となった昨年5月のロバート・ゲレロ(アメリカ)戦では3200万ドル、9月のサウル・アルバレス(メキシコ)戦では4150万ドルが最低保証されている。課金システムのペイ・パー・ビューが好調だったアルバレス戦では、総額で80億円近くが懐に入ったと報じられているほどだ。いまのメイウェザーは様々な見地からイージーなマッチメークが許されない状況にあるといえる。マイダナを迎えるにあたり45戦全勝(26KO)の5階級制覇王者は「ブローナーとの試合を見たが、マイダナは極めて危険な相手だと思う。決して甘く見てはいない」と手綱を締めている。
WBA王者のマイダナは現在、元4階級制覇王者ノニト・ドネア(フィリピン)や現IBF世界フェザー級王者イブゲニー・グラドビッチ(ロシア)らを指導しているロベルト・ガルシア・トレーナーに師事している。フィジカル面ではマニー・パッキャオ(フィリピン)の指導を担当していたアレックス・アリザ・トレーナーの指導を受けている。早朝にフィジカル・トレーニング、午後にジムワークというスケジュールを組んで「打倒メイウェザー」に備えていると伝えられる。ガルシア・トレーナーは「フィジカルのトレーニングをこなしているので、以前よりも全体的にスピードがアップした。コンビネーションの回転も速くなった」と手応えを感じている様子だ。マイダナ自身も「メイウェザーが偉大なチャンピオンであることは十分に分かっている。しかし、私は自分の仕事を全うするだけだ。思い切り強いパンチを叩き込み、KOを狙う」と強気だ。
4月下旬に入った時点のオッズは10対1でメイウェザー有利と出ている。極めて順当な予想を立てるならば、その数字のとおりスピードとテクニック、巧みな試合運びや経験など多くの面で勝るメイウェザーが着々と加点、大差をつけて試合を終えるとみるべきだろう。徐々にWBA王者を弱らせ、終盤に連打をまとめてストップする可能性もある。
ただし、このカードの面白さと興味はそれとは別のところにある。38戦35勝(31KO)3敗、実に82パーセントのKO率を誇るマイダナのハンマーパンチがメイウェザーに当たるかどうか、クリーンヒットしたときに何が起こるのか――そこに絞られているといっても過言ではないだろう。要は歴史的な番狂わせが起こるかもしれない、その可能性がマイダナの一撃にはあるということだ。特にマイダナは3ラウンド以内のKO勝ちを23度も記録している。一方、この2月に37歳になったメイウェザーはザブ・ジュダー(アメリカ)戦では序盤に手こずり、シェーン・モズリー(アメリカ)との試合では2回に強烈な右を2発浴びてあわやダウンという窮地に陥ったことがある。必ずしも立ち上がりは万全というわけではないのだ。ここで「たら」と「れば」が組み合わさる可能性は決して低くはないと思われる。1ラウンド開始のゴングから一瞬たりとも目の離せないスリリングな展開になりそうだ。
TALE OF THE TAPE
メイウェザー | マイダナ | |
---|---|---|
生年月日 | 1977年2月24日/37歳 | 1983年7月17日/30歳 |
出身地 | グランドラピッズ(アメリカミシガン州) | サンタフェ(アルゼンチン) |
アマ戦績 | 90戦84勝6敗 ※96年アトランタ五輪銅獲得 | 戦績不明 ※03年世界選手権ベスト8 |
プロデビュー | 96年10月 | 04年6月 |
獲得王座 | S・フェザー級 ライト級 S・ライト級 ウェルター級 S・ウェルター級 | S・ライト級 ウェルター級 |
ニックネーム | 「マネー」 | 「エル・チノ(東洋人に似た男)」 |
戦績 | 45戦全勝(26KO) | 38戦35勝(31KO)3敗 |
KO率 | 約58% | 約82% |
身長 | 173センチ | 170センチ |
リーチ | 183センチ | 175センチ |
戦闘スタイル | 右ボクサーファイター型 | 右ファイター型 |
Written by ボクシングライター原功
フロイド・メイウェザー
ウェルター級トップ戦線の現状
WBA :マルコス・マイダナ(アルゼンチン)
WBA暫定:キース・サーマン(アメリカ)
WBC :フロイド・メイウェザー(アメリカ)
IBF :ショーン・ポーター(アメリカ)
WBO :マニー・パッキャオ(フィリピン)
このクラスには、21世紀に入ってから世界のボクシングシーンを牽引してきたふたりのヒーローがいる。WBC王者フロイド・メイウェザー(アメリカ)と、4月にティモシー・ブラッドリー(アメリカ)からWBO王座を取り戻したマニー・パッキャオ(フィリピン)だ。両者の頂上対決は4年ほど前に実現寸前までいったが、最終的に交渉は決裂。以後は話題にはなるものの平行線を辿ったままだ。メイウェザーがゴールデンボーイ・プロモーションズとショータイム、パッキャオがトップランク社とHBOテレビという枠にはまっているため、どちらかが譲歩しない限り話がまとまらないのだ。メイウェザーが37歳、パッキャオが35歳――なんとか実現できないものか、というのが多くのファンの本音であろう。アミール・カーン(イギリス)対ブラッドリー、カーン対ファン・マヌエル・マルケス(メキシコ)、あるいはエイドリアン・ブローナー(アメリカ)対ブラッドリー、ブローナー対マルケスの実現が難しい理由としても同様のことがいえる。
こうしたなか成長著しいのがIBF王者ショーン・ポーター(アメリカ)である。
小柄な好戦派で、近い将来の主役を張る可能性も十分といえる。そのポーターへの指名挑戦権を持つケル・ブルック(イギリス)にも注目したい。複数の階級を制覇してきた前出のブローナー、ブラッドリー、マルケスらの今後にも要注目だ。