26連勝(24KO)中の王者 VS 29戦全勝(24KO)の挑戦者
序盤からスリリングな打撃戦は必至
31戦27勝(25KO)3敗1分のシーサケットと、29戦全勝(24KO)のクアドラス。ともに8割を超すKO率を誇る軽量級ばなれした強打者ということで、スリルに富んだ打撃戦が展開されそうだ。
シーサケットは昨年5月、地元タイにWBC世界S・フライ級王者だった佐藤洋太(協栄)を招いて挑戦、8回TKOで破ってベルトを腰に巻いた。身長は160センチと小柄だが、サウスポー・スタンスから重量感のある左ストレート、フック、そして左右のボディブローを叩きつける好戦的な戦闘スタイルの持ち主だ。09年3月のプロデビュー戦では八重樫東(大橋=現WBC世界フライ級王者)に3回TKO負けするなど、5戦目までは1勝3敗1分という戦績だったが、以後の5年間は26戦全勝(24KO)と大変身。佐藤から奪った王座は向井寛史(六島)を9回TKOで下して初防衛を果たしている。ノンタイトル戦を含め6連続KO勝ち中で、勢いもある。
挑戦者のクアドラスはパンナム大会優勝などアマチュアで活躍後、08年にプロ転向。足掛け7年のキャリアで29戦全勝(24KO)のレコードを残している。この数字が示すように圧倒的な攻撃力を持つ右のボクサーファイター型だが、ディフェンスの甘さを突かれてダウンを喫したこともあり、まだ数字ほどの完璧さは備わっていない。それでも最近はロナルド・バレラ(コロンビア)、フェルナンド・ルマカド(フィリピン)、ビクトル・サレタ(メキシコ)といった元世界ランカーたちに勝っており、確実に総合力を上げてきている。
帝拳プロモーションと契約していることもあり、これまで日本のリングにも5度上がり、すべてKO(TKO)勝ちを収めている。また「日本がダイスキ」ということもあり、試合以外でも帝拳ジムでトレーニングする機会が多い。しばしば山中慎介(WBC世界バンタム級王者)や三浦隆司(WBC世界S・フェザー級王者)らと一緒に汗を流している。今回も4月下旬まで日本でトレーニングをこなしてからメキシコに戻って最終調整に入ったほどだ。
スタンスを広くとった左構えから相手に圧力をかけ、ボディから顔面に左右の強打を打ち分けるシーサケットは、敵地での試合ということで序盤から先手をとって仕掛けてくるものと思われる。これに対しクアドラスがどう出るかがみものだ。リスクを承知で真っ正直に正面から打ち合うのか、それとも適度に動きながら圧力を逃がしたうえで出入りするのか。馬力ではシーサケットが勝るが、クアドラスには地の利があり、総合的な戦力は互角とみていいだろう。
Written by ボクシングライター原功
オマール・ナルバエス
S・フライ級トップ戦線の現状
WBA :河野公平(ワタナベ)
WBC :シーサケット・ソールンビサイ(タイ)
WBC暫定:デビッド・サンチェス(メキシコ)
IBF :空位
WBO :オマール・ナルバエス(アルゼンチン)
このクラスの第一人者が10度の防衛を重ねているWBO王者のオマール・ナルバエス(アルゼンチン)であることに異論はないだろう。この技巧派サウスポーはフライ級でも16度の防衛をマークしており、2階級で10度以上の防衛という珍しい記録をつくった。ただし、そのナルバエスも7月10日で39歳。2年、3年というスパンで先を見とおすことは難しそうだ。まずは8月下旬か9月初旬に予定される指名挑戦者フェリペ・オルクタ(メキシコ)との再戦がヤマといえるだろう。WBA王者の河野公平(ワタナベ)は今年3月、元王者デンカオセーン・カオヴィチット(タイ)を豪快に倒して王座に返り咲いた33歳の好戦派。最近は突進力だけでなく細かなテクニックも身に着け、着実に総合力を上げている。亀田大毅が返上して空位になったIBF王座に関しては、1位のゾラニ・テテ(南アフリカ共和国)と3位の帝里木下(千里馬神戸)で決定戦が組まれている(7月18日 @神戸)。
今回、WBC王者のシーサケット・ソールンビサイ(タイ)に挑むカルロス・クアドラス(メキシコ)は、無冠のメンバーのなかでは最も力がある選手といえる。25歳と若いこともあり、ここで戴冠を果たすと長期政権も期待できそうだ。赤穂亮(横浜光)、マルコム・ツニャカオ(真正)、石田匠(井岡))、4階級制覇を狙う亀田興毅、元フライ級王者の五十嵐俊幸(帝拳)らも挑戦のチャンスをうかがっている。
14ヵ月前のドローを受けた再戦
オッズは7対4で地元のニエテス有利
この両者は13年3月、WBO世界ミニマム級王者だったフエンテスが2階級制覇を狙ってニエテスに挑戦、引き分けに終わっている。ジャッジのひとりは115対113でニエテスの勝利を支持したが、残る二者が114対114と採点したためドローという結果になった。その後、ニエテスは防衛回数を3まで伸ばし、再びフエンテスの挑戦を受けることになった。ニエテスは身長160センチと大きくはないが、距離とタイミングを合わせて比較的ワイルドな左右を叩きつけて出る右のボクサーファイター型といえる。押すところは押し、引くところは引いて間合いをとるなど巧さも持ち併せている。37戦32勝(18KO)1敗4分。
一方のフエンテスはニエテス戦後にミニマム級王座を返上してL・フライ級に転向。半年後の昨年9月には決定戦を制してWBOの暫定王座を獲得している。今回は五分の立場で対峙することになる。こちらは168センチとこの階級にしては長身で、左のジャブから右に繋げる攻撃パターンで勝ち進んできた。21戦19勝(10KO)1敗1分。
12ラウンドにわたって拳を交えただけに、ともに手の内は分かっているはず。事前に用意した策に加え、戦況をみながら出すコーナーのアドバイスも重要になりそうだ。総合力はほぼ互角とみるが、地の利があるニエテスがオッズでは7対4とリードしている。
Written by ボクシングライター原功
試合2週間前に相手が変更
地元のクィッグが圧倒的有利の予想
本来ならばクィッグは暫定王者のネオマール・セルメニョ(ベネズエラ)とのWBA内統一戦を行うはずだった。ところがセルメニョにビザの問題が発生、試合2週間ほど前になって渡航困難という状況に陥った。そこで急遽、ムニャイに挑戦権が回ってきた経緯がある。ムニャイは世界戦を控えたマーティン・ウォード(イギリス)のスパーリング・パートナーとして招かれ、そのままイギリスに留まっていたことが幸いした。
クィッグは相手に圧力をかけながら積極的に攻め込む右のボクサーファイター型で、クロス気味に打ち込む右と返しの左フックが主武器といえる。29戦27勝(20KO)2分と高いKO率を誇る。現在はプロモーターを務めている元世界2階級制覇王者リッキー・ハットン(イギリス)の秘蔵っ子としても知られている。
挑戦者のムニャイは「アトミック・スパイダー」の異名を持つ長身の右ボクサーファイターで、27戦24勝(12KO)2敗1分の戦績を残している。中長距離から左ジャブを飛ばして様子をうかがい、
慎重に戦いながら攻撃に結びつけるタイプだ。イギリスのリングに上がるのはこれが7度目のことで、過去の6戦では5勝(3KO)1敗という数字を残している。当時は無敗だったイギリス人ホープを連続して破るなど相性はいいようだ。
攻撃力で勝るクィッグが積極的に距離を詰め、間合いをとりたいムニャイが足と左でコントロールを試みる展開になりそうだ。オッズは12対1という大差で王者有利と出ている。
Written by ボクシングライター原功