10連続KO防衛の王者 VS 元2団体統一王者
アマ時代から引きずる因縁 けりをつけるのは?
10年8月にWBA暫定世界ミドル級王座を獲得して以来、史上3位タイとなる10連続KO防衛を果たしているゴロフキンと、かつてIBFとWBAの王座を持っていた元王者ギールの対戦。ゴロフキンの強打が炸裂するのか、それともギールのテクニックと連打が番狂わせを起こすのか、注目のカードだ。
ゴロフキンとギールはアマチュア時代から因縁を引きずっている。2001年、両者は大阪で開催された東アジア大会ウェルター級決勝で拳を交えたことがあり、そのときはゴロフキンが15対3の大差をつけてポイント勝ちを収め優勝を飾っている。その前年にシドニー五輪に出場を果たしているギールにとっては、屈辱ともいえる敗北だったはずだ。このあとゴロフキンは03年世界選手権ミドル級で優勝、04年のアテネ五輪ではミドル級銀メダルを獲得している。一方のギールは03年の世界選手権に出場したが、1回戦で敗退するなど満足できる結果を残すことはできなかった。
プロデビューはギールが04年10月、ゴロフキンは06年5月のこと。ここでも出世争いではゴロフキンが先を行った。前述のとおり10年8月にWBOの暫定王座を獲得し、豪快なKO防衛を重ねて評価を高めていったのだ。これに対しギールは東洋太平洋王座やマイナー団体の王座を獲得するなどして着々と経験値を上げていき、11年5月にセバスチャン・シルベスター(ドイツ)に判定勝ちを収めてIBFの世界ミドル級王座を手に入れたのだった。ライバルから9ヵ月遅れての栄光だった。世界王者同士の並走は1年半に及んだ。この間、ゴロフキンは正規王者に昇格を果たし、ギールは2度防衛後にWBAのスーパー王者、フェリックス・シュトルム(ドイツ)に判定勝ちを収めて2団体のベルトを保持するまでになった(12年9月)。このときWBAはギールとゴロフキン両陣営に対して団体内の統一戦を強制したのだが、ギール陣営が断った経緯がある。プロで唯一の敗北を喫している宿敵アンソニー・ムンディン(オーストラリア)との対戦を優先したのだ。再び交わるかと思われた両者の人生は、こうしてすれ違いに終わったのである。
その後、ゴロフキンが連続KO防衛を10まで伸ばしたのに対し、ギールはIBF王座5度目の防衛戦でダーレン・バーカー(イギリス)に判定負けを喫して王座陥落。ふたりのパワーバランスが崩れたこのタイミングで、13年ぶりの再戦が実現することになったわけだ。
理詰めに圧力をかけ、飛び抜けた強打で戦慄的なKOの山を築いているゴロフキンは29戦全勝(26KO)。スピードと連打で際どい勝負もものにしてきたギールは32戦30勝(16KO)2敗。「ゴロフキンの強打が簡単にギールを粉砕してしまうだろう」という予想が多くを占めるが、その一方で「ゴロフキンが初めて迎える難敵。苦戦はもちろんのこと番狂わせの可能性も低くはない」とギールの地力を高く評価する声もある。この試合に向けアメリカのビッグベアで村田諒太(三迫)らとスパーリングをこなしたゴロフキン自身も「ギールにはスピードやテクニック、経験がある。簡単に勝てる相手とは思っていない」と警戒している。
アマ時代から引きずってきた因縁のライバル対決。ゴロフキンの強打が唸るのか、それともギールのスピードと連打が凌駕するのか。序盤から目の離せないスリリングな展開になりそうだ。
Written by ボクシングライター原功
<資料1>歴代連続KO防衛記録
(1)17連続KO防衛 | : | ウィルフレド・ゴメス(プエルトリコ) | S・バンタム級 |
(2)14連続KO防衛 | : | ダリウス・ミハエルゾウスキー(ポーランド) | L・ヘビー級 |
(3)10連続KO防衛 | : | ロベルト・デュラン(パナマ) | ライト級 |
: | ナジーム・ハメド(イギリス) | S・バンタム級 | |
: | ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン) | ミドル級 | |
(6)9連続KO防衛 | : | ヘンリー・アームストロング(アメリカ) | ウェルター級 |
: | カルロス・サラテ(メキシコ) | バンタム級 | |
: | フェリックス・トリニダード(プエルトリコ) | ウェルター級 | |
(9)8連続KO防衛 | : |
ホセ・クエバス(メキシコ)、リカルド・ロペス(メキシコ)、 エデル・ジョフレ(ブラジル)、カオサイ・ギャラクシー(タイ)、 トミー・バーンズ(カナダ)、アーロン・プライアー(アメリカ)、 シェーン・モズリー(アメリカ) |
<資料2>ゴロフキンのV10の相手と結果
ミルトン・ヌニェス(コロンビア) <WBA暫定世界ミドル級タイトル獲得> |
: | ○1回KO | パナマ |
(1)ニルソン・タピア(コロンビア) | : | ○3回KO | カザフスタン |
(2)カシム・ウーマ(ウガンダ) | : | ○10回TKO | パナマ |
(3)ラファン・サイモン(アメリカ) | : | ○1回KO | ドイツ |
(4)淵上誠(八王子中屋) | : | ○3回TKO | ウクライナ |
(5)グレゴルツ・プロクサ(ポーランド) | : | ○5回TKO | アメリカ |
(6)ガブリエル・ロサド(アメリカ) | : | ○7回TKO | アメリカ |
(7)石田順裕(グリーンツダ) | : | ○3回KO | モナコ |
(8)マシュー・マックリン(イギリス) | : | ○3回KO | アメリカ |
(9)カーティス・スティーブンス(アメリカ) | : | ○8回終了TKO | アメリカ |
(10)オスマヌ・アダマ(ガーナ) | : | ○7回TKO | モナコ |
ゲンナディ・ゴロフキン
ミドル級トップ戦線の現状
WBAスーパー:ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)
WBA :空位
WBA暫定 :ドミトリー・チュディノフ(ロシア)
WBC :ミゲール・コット(プエルトリコ)
IBF :サム・ソリマン(オーストラリア)
WBO :ピーター・クィリン(アメリカ)
昨年の12月にドミトリー・チュディノフ(ロシア)がWBAの暫定王座を獲得したのを皮切りに、この階級は大きく動き出した。今年に入ってからゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)がWBAのスーパー王者に格上げされ、IBFではフェリックス・シュトルム(ドイツ)を破った40歳のサム・ソリマン(オーストラリア)が王座についた。6月にはかつての絶対王者セルヒオ・マルチネス(アルゼンチン)の王朝が崩壊、ミゲール・コット(プエルトリコ)がその座を取って代わった。WBO王者ピーター・クィリン(アメリカ)は今年4月、ルーカス・コネチニー(チェコ)を退けて危なげなく3度目の防衛を果たしている。
新しい風も吹き始めている。元アマチュア・エリート、サウスポーの技巧派強打者マット・コロボフ(ロシア)がWBO1位に躍進し、クィリンとの指名試合を待つ立場になっているのだ。08年北京五輪に出場した経験を持つビリー・ジョー・サウンダース(イギリス)も上位に食い込んでおり、12年ロンドン五輪金メダリストの村田諒太(三迫)もWBC11位までランクを上げ、早くもベルトを視界にとらえるところまできている。今年後半から来年にかけ、さらに激しい動きがみられそうだ。
18戦全勝(10KO) VS 21戦20勝(12KO)1分
実力伯仲の上位ランカー対決
この試合は当初、近春に行われる予定だったが、ペレスが負傷したため延期された経緯がある。仕切り直しとなった間に空位だったWBC王座にはバーメイン・スティバーン(カナダ)がつき、ジェニングスは4位から2位に、ペレスも5位から3位にランクアップした。
10年2月のプロ転向後、18戦全勝(10KO)のジェニングスはガードの堅いアップライトの構えから左ジャブを突いて切り崩しにかかる右のボクサーファイター型で、安定した戦いをみせる。身長191センチ、リーチ213センチ、体重は102キロ前後と、いまのヘビー級では必ずしも大柄というわけではないが、戦力的にはバランスがとれている。一方のペレスはアマチュア時代に04年の世界ジュニア選手権でL・ヘビー級で優勝しているほか、層の厚いことで知られるキューバの国内選手権でヘビー級準優勝を収めるなど輝かしい実績を持っている。08年にプロに転向し、ここまで21戦20勝(12KO)1分と無敗を保っている。左構えから先に圧力をかけ、左ストレート、右フック、回転の速い左右で追い込む積極的なボクシングを身上としている。体重は104キロ〜112キロとボリュームはあるが、身長は185センチとヘビー級にしては小柄だ。
サウスポーのペレスが仕掛け、ジェニングスが迎撃するパターンになりそうだが、ともに勘がいいだけに一方的な展開になることは考えにくい。競った内容のままラウンドが進みそうだ。オッズは13対8でジェニングス有利と出ている。
Written by ボクシングライター原功