英国のコブラ VS 北欧のヒットマン
3年ぶりの再戦は2対1でフロッチ有利の下馬評
2月上旬に試合決定が発表され、チケットが発売になると同時に完売状態となったほどの人気カードだ。この両者は3年前にデンマークで対戦したことがあり、そのときは地の利を生かしたケスラーが小差ながら3対0の判定勝ちを収め、フロッチからWBC王座を奪っている。その後、ケスラーは眼疾が判明したため王座を返上。再起して昨年暮れにWBA王座で返り咲きを果たした。一方のフロッチはケスラー戦から7ヵ月後に決定戦を制して王座に返り咲いたが、11年12月にアンドレ・ウォード(アメリカ)に敗れて再び無冠に逆戻り。引退をかけて臨んだ昨年5月のルシアン・ビュテ(ルーマニア)戦で5回TKO勝ち、IBF王座を手に入れた。
こうした紆余曲折のすえに実現することになった統一戦だが、オッズは2対1でフロッチ有利と出ている。ビュテを破った実績に加え、初防衛戦でも盤石の強さを発揮しているIBF王者の評価が思いのほか高いのだ。これに対しケスラーは試合間隔が空いたうえ、1年前のアラン・グリーン(アメリカ)戦ではダウンを喫すなど安定感を欠いた内容の試合が目立つ。こうした近況に加えフロッチの地元ロンドンでの試合ということがIBF王者有利の材料になっているようだ。
「コブラ」の異名を持つフロッチはアマチュアで96戦88勝8敗の戦績を残して02年にプロ転向。3度の世界タイトル獲得を含め32戦30勝(22KO)2敗の戦績を収めている。右ストレートを軸にした攻撃型の選手で、好機に一気に攻め込むスタイルを身上としている。耐久力の面でも優れており、アマ、プロ通じてダウン経験はジャーメイン・テイラー(アメリカ)戦の1度だけという。「前回は負けたけれど、あのときとは違う戦い方をする。だから今度は違う結果が出るはず」と自信をみせている。
対するケスラーは「バイキング・ウォリアー」「ヒットマン」などと呼ばれる人気選手で、モデルも務めるほどのイケメンだ。13歳上の姉リンスもモデルと女優をしている。母親アンがイングランド出身という縁もあり、イギリスは必ずしも敵地というわけではない。10歳でボクシングを始め、アマチュアでは47戦44勝3敗という戦績を残している。プロ転向は98年3月のこと。以後、15年間で48戦46勝(35KO)2敗という見事なレコードを残している。現在の世界王座は4度目のもので、この10年間のS・ミドル級史には欠かせない存在といえる。長く正確な左ジャブで切り込み、切り札の右ストレートで仕留めるという必勝パターンを持っている。
「前回は私の地元にフロッチが来たので、今回は私が彼の地元に行く。それがフェアというものだからね。でも、結果は前回と同じになるだろう」と、こちらも自信に満ちたコメントを発している。
体格面では大差がなく実績も互角といえるが、近況の良さと地の利がフロッチ有利を後押しする。大声援に背中を押されて序盤からIBF王者が攻勢に出て、先手をとりながら際どい内容でポイントを積み重ねる可能性が高いとみる。ケスラーは中長距離での戦いでどれだけ印象点を稼げるか。接戦が予想されるが、両者に判定勝ちを収めているWBAのスーパー王者アンドレ・ウォード(アメリカ)は「フロッチの勝利は堅いとみている。もしかしたら途中でストップしてしまうのではないか。ケスラーの勝機が見えない」とまで断言している。白熱した勝負になりそうだ。
Written by ボクシングライター原功
アンドレ・ウォード
ウェルター級トップ戦線の現状
WBAスーパー:アンドレ・ウォード(アメリカ)
WBA:ミッケル・ケスラー(デンマーク)
WBA暫定:スタニスラフ・カシュタノフ(ウクライナ)
WBC名誉:アンドレ・ウォード(アメリカ)
IBF:カール・フロッチ(イギリス)
WBO:ロバート・スティーグリッツ(ドイツ)
09年から11年12月にかけて行われた最強決定トーナメント「スーパー・シックス」はアンドレ・ウォード(アメリカ)が優勝。しかし、慢性的な肩の故障を治すため今年に入って手術を行い、現在は活動休養中だ。そのためWBCは名誉王者に格上げしたが、ウォード陣営は異議を唱えて係争中だ。こうしたなか行われる今回のカール・フロッチ(イギリス)対ミッケル・ケスラー(デンマーク)のIBF、WBA王座統一戦は、事実上の頂上決戦ともいえる。勝者がウォードとの再戦に駒を進める可能性が高いことを考えると、さらにこの試合の重要度が増すというものだ。
WBO王者ロバート・スティーグリッツ(ドイツ)は清田祐三(フラッシュ赤羽)の挑戦を受けることが決まっている。
ランカー陣では、今回のフロッチ戦に向けてケスラーのスパーリング・パートナーを務めたジョージ・グローブス(イギリス)の評価が高い。18戦全勝(14KO)の25歳が、いつ、どのタイミングで王座に絡んでくるのか注目したい。
<資料>フロッチ&ケスラー 両雄の10年〜13年までの3年間の浮沈
フロッチ | ケスラー | |
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10年4月 | ケスラーに敗れ王座失う | フロッチからWBC王座奪う |
9月 | 眼疾が判明、王座返上 | |
11月 | 決定戦を制しWBC王座奪回 | |
11年6月 | 戦線復帰でWBO欧州王座獲得 | |
12月 | ウォードに敗れWBC王座失う | |
12年5月 | ビュテを倒してIBF王座獲得 | LH級で試運転(4回KO勝ち) |
11月 | IBF王座初防衛 | |
12月 | 3度目のWBA王座獲得 |
<資料>TALE OF THE TAPE
フロッチ | ケスラー | |
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生年月日 | 1977年7月2日/35歳 | 1979年3月1日/34歳 |
出身地 | イギリス | デンマーク |
獲得した世界王座 | WBC王座(2度) IBF王座 | WBA王座(3度) WBC王座(2度) |
アマ戦績 | 96戦88勝8敗 | 47戦44勝3敗 |
プロ戦績 | 32戦30勝(22KO)2敗 | 48戦46勝(35KO)2敗 |
身長 | 185センチ | 185センチ |
リーチ | 191センチ | 188センチ |
ニックネーム | 「コブラ」 | 「バイキング・ウォリアー」 「ヒットマン」 |
オッズ | ※2対1でフロッチ有利 |
次期王者候補グローブスに注目
連勝を19に伸ばせるか
32戦30勝(22KO)2敗のノエ・ゴンサレス・アルコバ(ウルグアイ)もWBC11位にランクされる実力者だが、ここは18戦全勝(14KO)のWBO1位、25歳のジョージ・グローブス(イギリス)に要注目だ。
グローブスは世界ジュニア選手権に出場するなどアマチュアで活躍後、08年11月にプロ転向。2年前には08年北京金のジェームス・デゲール(イギリス)に判定勝ち、昨年暮れには元世界王者グレン・ジョンソン(ジャマイカ)にも判定で勝つなど着々と実績を積み重ねている。現在はWBAで2位、WBCで3位、IBFでも6位に名を連ねている。今春、フランク・ウォーレン・プロモーターの下を離れ、フロッチと同じエディ・ハーン氏率いるマッチルーム・ボクシングと契約を交わしたばかりだ。その初戦だけに、勝利はもちろんのこと存在感を示す内容が要求される。
メインに登場するミッケル・ケスラー(デンマーク)ともスパーリングを重ねたというだけに、大いに期待したいところだ。
Written by ボクシングライター原功