「スピード・キング」の左ストレートか、
「フィリピーノ・フラッシュ」の左フックか
紆余曲折を経て実現するS・バンタム級頂上決戦。サウスポーの西岡は左ストレート、右構えをベースにするドネアは左フックと、ともに一撃で相手を沈める決め手を持つだけに、序盤から虚々実々の駆け引きを含めたスリリングな試合になることは間違いない。
WBCから“名誉チャンピオン”の称号を授かった西岡は「スピード・キング」を名乗るサウスポーのパンチャー型。巧みな右ジャブで突破口を開き、鋭く踏み込んで左を突き刺す攻撃パターンを得意としている。経験を積むごとに戦術面の巧妙さも増している。海外での試合も5度を数え、3年前には相手国メキシコでダウンを挽回してジョニー・ゴンサレスをTKOで下すなど逞しさも身につけている。昨年10月には日本人として初めてアメリカ・ラスベガスでの防衛も達成。このラファエル・マルケス(メキシコ)戦では序盤をセーブして中盤からペースを上げるなど頭脳的な面でも卓抜したものを誇る。
7月に36歳になったが、「肉体面、精神面の心配はまったくない」と断言している。1年のブランクに関しても「休んでいたわけではないので、なんの問題もない。休養したことでより強くなった」と話す。日本で順調にトレーニングをこなし、すでに10月4日にはアメリカ入りしている。
一方のドネアは、アニメや漫画、はたまた宮本武蔵など歴史上の人物などを含め日本に関する豊富な知識を持つ大の親日家としても知られている。
フィリピン生まれだが少年時代に家族でアメリカに移住。ボクシングは西岡と同じ11歳で始めた。17歳のときに全米選手権で優勝するなどアマチュアで86戦78勝(8KO、RSC)8敗の戦績を残している。KO、RSCが少ないのは「スピードと足を生かして打って離れるボクシングに徹したから」(ドネア)という。
01年2月、アメリカでプロデビュー。2戦目に判定負けを喫した以外はすべて勝利を収めており、10年間に28連勝(17KO)を収めている。特筆すべきは10度の世界戦で全勝(6KO)、4階級制覇を成し遂げている点であろう。ビック・ダルチニャン(アルメニア)、モルティ・ムサレーン(南アフリカ共和国)、エルナン・マルケス(メキシコ)、ウラディミール・シドレンコ(ウクライナ)、フェルナンド、モンティエル(メキシコ)、オマール・ナルバエス(アルゼンチン)、ウィルフレド・バスケス・ジュニア(プエルトリコ)、ジェフリー・マセブラ(南アフリカ共和国)といった現元後の世界王者たちに圧勝するなど中身も濃い。
基本的には右構えだが、ときおり左にスイッチする器用さも持っている。最も得意とするパンチはモンティエルを沈めた左フックだが、以後は相手に警戒されてKOを逃している。「ニシオカさんの左は強いので要注意。でも左だけでは僕には勝てないよ」と話している。
左右の構えの違いはあるが、ともにスピードと強打を生かしたボクシングを身上としている。まずは速さ比べということになるだろうが、どちらがどんなかたちで仕掛けて出るのか。
西岡の左ストレート、ドネアの左フックが最注目パンチだが、ともにそう簡単に切り札を出すとも思えない。決め手のパンチに繋ぐためにどんな策を用いるのか、どんな仕掛けをしてくるのか、どんな防御策を用いるのか――注目ポイントは多い。
目の離せない緊迫した展開のなか、試合は一瞬で終わるのではないだろうか。勝者コールを受けるのは?
Written by ボクシングライター原功
ギジェルモ・リゴンドー
S・バンタム級トップ戦線の現状
WBA:ギジェルモ・リゴンドー(キューバ)
WBC名誉:西岡利晃(帝拳)
WBC:アブネル・マレス(メキシコ)
IBF:ノニト・ドネア(フィリピン)
WBO:ノニト・ドネア(フィリピン)
錚々たるメンバーが王座に君臨している。WBA王者のギジェルモ・リゴンドー(キューバ)は、シドニー、アテネ両五輪制覇の天才サウスポー。噛み合わせが甘いと安全運転に徹する傾向もあるが、潜在能力は極めて高い。プロとして人気面で課題を抱えているが、実力という点では西岡、ドネアと比較しても勝るとも劣らないものがある。12月に5度目の防衛戦が計画されている。
WBCのレギュラー王者アブネル・マレス(メキシコ)はアテネ五輪に出場した経験を持つ無敗戦士。総合的に高い戦力を備えたボクサーファイターで、近い将来の核になる選手と見られている。11月にWBA世界バンタム級“スーパー王者”アンセルモ・モレノ(パナマ)の挑戦を受けることになっている。
このほか、11月にWBAの暫定王座決定戦を行うスコット・クイッグとレンドール・ムンローのイギリス勢、WBC1位のビクトル・テラサス(メキシコ)、かつて日本のリングでも活躍したアレクサンデル・バクティン(ロシア)、元WBA王者の下田昭文(帝拳)らがタイトルの至近距離にいる。
<資料>西岡対ドネア 実現までの経緯
11年8月 |
WBC・WBO世界バンタム級王者ドネアが来日、帝拳ジムを訪問。 ラファエル・マルケス戦を前に練習中の西岡と初対面。「S・バンタム級最強はニシオカさん。来年(12年)には階級を上げて挑戦したい」とドネアがラブコール |
11年10月 | ラスベガスで西岡がマルケスに判定勝ち。リングサイドで試合を撮影していたドネアがリングに上がり、西岡を祝福 |
12年1月 |
年明け最初の練習で西岡がドネアとの対戦希望を口にする。「ここまで来たら究極の対戦相手としてはドネアしかいないでしょう」 ※その後、両陣営が下交渉をするが、試合の時期が合わずにすれ違い。 |
12年2月 | ドネアがWBO世界S・バンタム級王座を獲得、4階級制覇を達成 |
12年7月 | ドネアがIBF世界S・バンタム級王者ジェフリー・マセブラ(南アフリカ共和国)とアメリカ・カーソンのホームデポ・センターで統一戦。西岡がリングサイドで観戦後、リングに上がり「次は俺と戦おう」とドネアと対戦直談判 |
12年8月 | 西岡対ドネアが正式決定。日本とアメリカで発表される |
TALE OF THE TAPE
西岡 | ドネア | |
---|---|---|
1976年7月25日/36歳 | 生年月日 | 1982年11月16日/29歳 |
加古川市(兵庫県) | 出身地 | タリボン(フィリピン) |
東京都/兵庫県 | 現在の居住地 | カリフォルニア州(アメリカ) |
20戦以上(勝敗数不明) | アマチュア | 78勝(8KO、RSC)8敗 |
94年12月 | プロデビュー | 01年2月 |
WBC世界S・バンタム級V7 ※現名誉王者 |
獲得王座 | IBF世界フライ級 WBA世界S・フライ級 WBC・WBO世界バンタム級 IBF・WBO世界S・バンタム級 |
12戦8勝(5KO)2敗2分 | 世界戦戦績 | 10戦全勝(6KO) |
46戦39勝(24KO)4敗3分 | 戦績 | 30戦29勝(18KO)1敗 |
約52% | KO率 | 60% |
「スピード・キング」 | ニックネーム | 「フィリピーノ・フラッシュ」 |
169センチ | 身 長 | 166センチ |
174センチ | リーチ | 173センチ |
左ボクサーファイター型 | 戦闘タイプ | 右ボクサーファイター型 (左にスイッチすることも) |
左ストレート | 得意のパンチ | 左フック |