引き分けを受けた因縁のリマッチ
5階級制覇のアルセ圧倒的有利だが…
この両者は約1年半前の10年9月、メキシコのクリアカンで対戦、10回引き分けに終わっている。当時はアルセがWBOのバンタム級1位、パーラが同4位だったが、なぜかWBO世界S・バンタム級挑戦者決定戦と銘打たれていた。戦前の賭け率は7対1、圧倒的にアルセ有利の予想だった。
ともにリミットを軽々と割り込む120ポンド(約54.4キロ)の体重でリング上がり、一進一退のすえ意外にもドローという結果に終わった。引き分け判定が出た直後に集計ミスがあったとして、現地のテレビがアルセの判定勝ちと伝えるなどお粗末なハプニングのおまけつきだった。正式には98対93(アルセ)、97対94(パーラ)、95対95の三者三様のドローが再確認されている。
引き分けにも拘わらずアルセは翌月のWBOランキングでS・バンタム級1位に"特進"。指名挑戦者として5月のウィルフレド・バスケス・ジュニア(プエルトリコ)への挑戦にこぎつけている。そしてバスケスに12回TKO勝ち、4階級制覇を成し遂げたのだった。その勢いを維持して9月に初防衛。さらに11月にはバンタム級に戻してWBOタイトルを獲得し、メキシコ人初の5階級制覇を達成している。パーラ戦が幸運を呼び込んだのか、以後は4連勝(3KO)と好調だ。
一方のパーラはアルセと引き分けたあと、昨年6月にアンセルモ・モレノ(パナマ)の持つWBA世界バンタム級"スーパー・タイトル"に挑戦、8回TKO負けを喫している。世界ランクからも外れるなど、こちらは運気が急降下といったところだ。
そんな両者の再戦だけに、アルセ有利の予想は当然といえる。序盤からトップギアで飛ばし、回転の速い上下の連打で中盤までに攻め落としてしまう可能性が高そうだ。
パーラはフライ級時代のような足さばきが失せつつあるだけに苦しい。先手を取ってアルセを慌てさせ、そのうえで効率よく戦うことができれば勝機も見出せようが、アルセがそれを易々と許すとは思えない。アルセの攻撃に対し、どこまでパーラが凌げるかが焦点になるかもしれない。
アルセはこの試合に勝つことを前提に、再びS・バンタム級に転向を考えているという。この際、WBC王者・西岡利晃(帝拳)、WBO王者ノニト・ドネア(フィリピン)らとの対決をイメージして試合を見るのも一興かもしれない。
Written by ボクシングライター原功
<資料>
4階級制覇以上の世界チャンピオン
6階級 |
オスカー・デラ・ホーヤ(アメリカ) マニー・パッキャオ(フィリピン) |
---|---|
5階級 |
トーマス・ハーンズ(アメリカ) シュガー・レイ・レナード(アメリカ) フロイド・メイウェザー(アメリカ) ホルへ・アルセ(メキシコ) |
4階級 |
ロベルト・デュラン(パナマ) パーネル・ウィテカー(アメリカ) レオ・ガメス(ベネズエラ) ロイ・ジョーンズ(アメリカ) エリック・モラレス(メキシコ) ノニト・ドネア(フィリピン) |
※赤字は現役選手
ノニト・ドネア
S・バンタム級トップ戦線の現状
WBA:ギジェルモ・リゴンドー(キューバ)
WBC:西岡利晃(帝拳)
IBF:タカラニ・ヌドゥロブ(南アフリカ)
WBO:ノニト・ドネア(フィリピン)
現在、S・バンタム級は最も熱いクラスのひとつといえる。主役は3人。WBC王座を7度防衛中の西岡利晃(帝拳)と、4階級制覇のWBO王者ノニト・ドネア(フィリピン)、そしてリコ・ラモス(アメリカ)に何もさせずに屠ったWBA王者ギジェルモ・リゴンドー(キューバ)である。
リゴンドーは盛んにドネアに対戦の呼びかけをしているが、ドネアは「S・バンタム級で最も顕著な実績を残しているニシオカと対戦したい」と話している。西岡対ドネアの実現が待たれるところだ。
こうした一方、バンタム級のIBF王者だったアブネル・マレス(メキシコ)が王座を返上してS・バンタム級に転向してきた。4月に初戦が計画されているが、要注目といえる。
ランカー陣では、元王者の下田昭文(帝拳)、かつて日本で活躍したアレクサンデル・バクティン(ロシア)らが目立つ。3階級制覇王者フェルナンド・モンティエル(メキシコ)を破ったビクトル・テラサス(メキシコ)も不気味な存在だ。