チャベス・ジュニア、世界初挑戦!
WBC世界ミドル級タイトルマッチ
WBC世界ミドル級チャンピオン
セバスチャン・ズビック
(ドイツ)
WBC世界ミドル級1位
フリオ・セサール・チャベス・ジュニア
(メキシコ)
30戦全勝の「ドイツの星」 VS 44戦無敗の「伝説の継承者」
親子2代王者誕生か?
30戦全勝(10KO)の王者ズビックに、44戦無敗(42勝30KO1分1無判定)のチャベスが挑む注目の一戦。チャベス・ジュニアは、"90年代のカリスマ"と言われた3階級制覇王者の父チャベスの伝説を継承することができるのか。
チャベス・ジュニアがもの心ついたとき、すでに父は常に大勢の取り巻きとファンに囲まれるヒーローだった。そんな環境にあったチャベス・ジュニアは周囲から「ジュニア、ジュニア」と親しみを込めた声をかけられていたものだ。父がトレーニングするジムが遊び場となっていたチャベス・ジュニアだが、不思議なことにアマチュア経験は皆無と伝えられる。
プロデビューは03年9月、17歳のときだった。3年余りで30戦をこなし、この間にWBCユース王座を獲得。08年あたりから強豪との対戦が増え、ホセ・セラヤ(アメリカ)、マット・バンダ(アメリカ)、ルシアノ・クエジョ(アルゼンチン)、ジョン・ダディ(アイルランド)、ビリー・ライル(アメリカ)らと拳を交えて経験値を上げている。
身長183センチ、リーチ185センチの大柄な右ボクサーファイター型で、最近は好戦的な面を前面に出して戦うケースが目立つ。ワンツーからの左フック、上下の打ち分けを得意としている。ダディ戦やライル戦を経て耐久面の逞しさも身につけているようだ。
WBC1位にランクされるが、一部のファンや専門家からは「親父の七光り。まだ世界の舞台は早い」と手厳しい意見も出ている。指導しているフレディ・ローチ・トレーナーも「正直いって世界挑戦は少し早い気がするが、現時点でも力を出し切ればズビックには勝てる」と話している。
そんなチャベス・ジュニアの挑戦を受けるズビックは29歳。ヨーロッパを離れて戦う経験は今回が初めてとなる。ボクシングを始めたのは11歳のときで、アマチュアでは151戦130勝(25KO、RSC)19敗2分の戦績を収めている。世界ジュニア選手権(2000年:1回戦敗退)、ヨーロッパ選手権(02年:ウェルター級3位)、世界選手権(03年:1回戦敗退)出場の実績を残し、04年7月にプロ転向を果たした。
ピーター・コール率いるウニベルスム・ボックス・プロモーションの庇護のもと、これまで30の白星を並べてきた。09年7月にはドメニコ・スパダ(イタリア)との決定戦を制してWBC暫定世界ミドル級タイトルを獲得。このタイトルはスパダとの再戦を含めドイツ国内で3度の防衛を果たしている。いずれも12回判定勝ちという点がズビックらしいところといえよう。
丹念に左ジャブを突きながらボクシングを組み立てる正統派の右ボクサー。スピードはあるがパワーの点では少なからず物足りなさを感じさせる。
両者にとってアメリカは第3国だが、チャベス・ジュニアはキャリアの半数以上をアメリカ国内で戦ってきた。メキシコ系移民の多いロサンゼルスでの試合だけに、チャベス・ジュニアに地の利があるといえる。
関係者やファンのなかに不安を抱く者がいる一方、チャベス・ジュニアに期待するファンや関係者はそれ以上に多い。2対1で挑戦者有利というオッズは、その期待度の表れといっていいだろう。
いつものようにズビックはスピードを生かしながら左ジャブを突いて出るものと思われる。この3年ほど、チャベス・ジュニアは長丁場を意識してかスロースタートの傾向がみられるだけに、ズビックが序盤を支配する可能性は高いとみる。問題は挑戦者が追い込みを始めると思われる中盤以降だろう。ズビックが左と足で重圧をかわし続けることができるかのどうか。逆にチャベス・ジュニアはロープやコーナーに追い詰めてパンチをまとめることができるのかどうか。
ズビックがテクニックを駆使して逃げ切る可能性と、チャベス・ジュニアが乱打戦に巻き込んで強引に潰してしまう可能性は五分五分といえよう。
<資料 親子(実子)世界チャンピオン ※過去に4例>
(1)エスパダス親子(メキシコ)
父:グティ・エスパダス=フライ級(76年〜78年)
息子:グティ・エスパダス・ジュニア=フェザー級(00年〜01年)
(2)スピンクス親子(アメリカ)
父:レオン・スピンクス=ヘビー級(78年)
息子:コーリー・スピンクス=ウェルター級(03年〜05年)
S・ウェルター級(06年〜08年、09年〜10年)
(3)アリ父娘(アメリカ)
父:モハメド・アリ=ヘビー級(64年〜67年、74年〜78年、78年〜79年)
娘:レイラ・アリ=S・ミドル級(05年〜07年)
(4)バスケス親子(プエルトリコ)
父:ウィルフレド・バスケス=バンタム級(87年〜88年)S・バンタム級(92年〜95年)フェザー級(96年〜98年)
息子:ウィルフレド・バスケス・ジュニア=S・バンタム級(10年〜11年)
※このほか養子縁組のパターソン親子(父:フロイド・パターソン=ヘビー級、
息子:トレーシー・ハリス・パターソン=S・バンタム級、S・フェザー級)の例もある
Written by ボクシングライター原功
セルヒオ・マルチネス
ミドル級トップ戦線の現状
WBAスーパー:フェリックス・シュトルム(ドイツ)
WBA:ゲナディ・ゴロフキン(カザフスタン)
WBA暫定:ハッサン・ヌダム・ヌジカム(カメルーン)
WBC:セバスチャン・ズビック(ドイツ)
IBF:ダニエル・ギール(オーストラリア)
WBO:ディミトリー・ピログ(ロシア)
チャンピオンの項に名前はないが、このクラスの主がWBC"ダイヤモンド・ベルト"保持者のセルヒオ・マルチネス(アルゼンチン)であることに誰も異論はあるまい。ケリー・パブリック(アメリカ)からWBC・WBOタイトルを奪い、ポール・ウィリアムス(アメリカ)の挑戦を2回KOで一蹴。今年3月には下のクラスから侵略を試みたセルゲイ・ジンジルク(ウクライナ)にプロ初の黒星をなすりつけたばかりだ。10月にダーレン・バーカー(イギリス)の挑戦を受けることが決まっているが、政権はそう簡単に崩壊しそうにない。
デビッド・レミュー(カナダ)とのWBC挑戦者決定戦を制したマルコ・アントニオ・ルビオ(メキシコ)は長身の強打者。ズビック対チャベス・ジュニアの勝者への挑戦を狙う。ジェームス・カークランド(アメリカ)を衝撃的な初回TKOに破った石田順裕も虎視眈々とチャンスをうかがっている。
ヘビー級同様、生きのいいアメリカの新鋭が皆無という点が少々寂しい。
WBCシルバー・S・ウェルター級王座決定戦
WBO世界S・ウェルター級1位
バーネス・マーティロスヤン
(アメリカ)
WBO世界S・ウェルター級7位
サウル・ローマン
(メキシコ)
アルメニア出身の「悪夢」 VS メキシコの「猛獣」
ローマンの強打に波瀾の可能性も
WBO1位、WBCとIBFで4位にランクされるマーティロスヤンは東欧アルメニア出身の25歳。彼が4歳のときに一家でアメリカに移り住んだ。マーティロスヤンは父親ノリックの影響で7歳のときにボクシングを始め、アマチュアで130戦120勝10敗の戦績を収めている。特筆すべきはアテネ五輪に18歳で出場(2回戦敗退)したことと、アメリカ&アメリカ大陸予選でティモシー・ブラッドリー(アメリカ=現WBC・WBO世界S・ライト級王者)やアンドレ・ベルト(アメリカ=前WBC世界ウェルター級王者)にポイント勝ちを収めていることであろう。これらの大会でノーマークながら有力選手を次々に破っていったことから「悪夢」の異名がついたという逸話が残っている。
有力マネージャーのシェリー・フィンケル氏が付き、トップランク社と契約してプロデビューしたのは05年4月のこと。しばらくは慎重なマッチメークが続いたが、2年ほど前からは骨のある相手との手合わせが増えた。ウィリー・リー(アメリカ)、元世界王者カシム・ウーマ(ウガンダ)、全勝のジョー・グリーン(アメリカ)らを連破して世界上位に進出してきた。
恵まれた体格を生かした技巧派の強打者で、自ら仕掛けをつくったうえでカウンターをかますなど頭脳的な一面も持っている。今回の試合を前に同じフレディ・ローチ・トレーナー門下のフリオ・セサール・チャベス・ジュニア(メキシコ)とスパーリングを重ね、一段と逞しさを増したと伝えられる。
一方のローマンは高い経験値を持つ危険度の高いハードパンチャーだ。ルーキー時代のこととはいえ強豪マルコ・アントニオ・ルビオ(メキシコ)に2回TKO勝ちを収めたこともあり、元世界王者カシム・ウーマ、ヨリボーイ・カンパス(メキシコ)に勝利を収めた実績も持っている。4回KO負けとはいえセルヒオ・マルチネス(アルゼンチン)との対戦経験があることも、いまや勲章となっている。
戦績は42戦34勝(29KO)8敗。8敗のうち5敗はKOによるもので、勝っても負けてもKO決着の多いスリリングな選手だ。
世界の頂点を視界にとらえているマーティロスヤンは、近い将来の大勝負に向けてアピール度の高い戦いが期待される。ジャッジの手を煩わせずに試合を終わらせることがノルマといえよう。慎重かつ大胆な戦いを展開してほしいところだ。
しかし、ローマンは29KOのうち3回以内のKO勝ちが18度もあるパンチャー。序盤は要注意だ。
Written by ボクシングライター原功
NABF・NABO北米フェザー級タイトルマッチ
NABF・NABO北米フェザー級チャンピオン
ミゲール・ガルシア
(アメリカ)
WBA世界フェザー級4位
ラファエル・グスマン
(メキシコ)
兄弟王者を目指す全勝ホープ VS 捲土重来を期す元世界ランカー
23歳の若き才能に注目
中量級、重量級の宝庫といわれるアメリカだが、このところ比較的軽いクラスでホープの台頭が目立つ。S・フェザー級のエイドリアン・ブローナー、S・バンタム級のテオン・ケネディ。そして、このガルシアも期待度の高い新鋭のひとりだ。
1987年12月生まれの23歳。12歳上の兄ロベルト・ガルシアは元IBF世界S・フェザー級王者で、現在はノニト・ドネア(フィリピン:WBC・WBO世界バンタム級王者)、ブランドン・リオス(アメリカ:WBA世界ライト級王者)、さらに9月にフロイド・メイウェザー(アメリカ)との決戦を控えるビクター・オルティス(アメリカ:WBC世界ウェルター級王者)らのトレーナーを務めている。
その兄のトレーナーを務めていたのが父エドゥアルドだ。苺農家の長でもあるエドゥアルドは、畑仕事を終わらせるとジムに直行してロベルトやフェルナンド・バルガス(アメリカ:元世界S・ウェルター級王者)のミットを持っていたという。この環境を想像すれば、ガルシアが14歳でボクシングを始めた理由をあらためて記す必要などあるまい。
アマチュアを経て06年7月にプロ転向を果たし、ここまで25戦全勝(21KO)をマーク。昨年4月、激闘型のトマス・ビジャ(メキシコ)を初回TKOに下してUSBA全米フェザー級タイトルを獲得。今年3月にはマット・レミラード(アメリカ)との全勝対決に圧勝してNABF・NABO北米タイトルを手に入れている。好戦的でエキサイティングな右のボクサーファイター型。生来の右利きだが、試合中に左右にスイッチすることもある。
このホープに挑むグスマンは30戦28勝(20KO)2敗の25歳。IBF12位のフェルナンド・ベルトラン(メキシコ)が拳を負傷したため急遽チャンスが巡ってきたという経緯がある。
現在は世界ランクに名前を見つけることはできないが、グスマンはWBC中米カリブ・フェザー級王座を獲得した09年1月のあと、最高位でWBC世界フェザー級7位につけたことがある。ここで番狂わせを起こせば再びスポットライトを浴びることになるだけに、高いモチベーションを抱いてリングに上がることだろう。
現戦力や勢い、チーム力を考えるとガルシアの圧倒的有利は不動だが、グスマンも7割近いKO率を誇るだけに油断と予断は禁物だ。
Written by ボクシングライター原功